母からのレッスン

こころエッセイ

先日も施設の母に会いにいきました。

どんどん変化していく母に会うことは、「今、会わなくては」と「ちょっと怖い」間で揺らぎます。

最近の母は無表情になり、ジーッと周りや私を観察しているような様子です。
ほとんど話もしなくなりました。

ジーッと見つめて、何か考えているのか…、何もないのかもわかりません。

施設のスタッフさんに母の部屋を少し片付けて欲しいと言われていたので、必要のなさそうな物を、母に確認しながらゴミ袋に入れる作業をしていたら、急に母に

「 部屋はいいからロビーに行こう」
と、ひっぱり出されました。

部屋を出ると私と私の娘を見て、
「2人だけだっけ?」
と不安そうに聞きます。人数を確認しているようです。

ロビーでお茶をしていると娘が母に
「会えてよかった」と言い、母も一瞬だけ笑顔で「うん、うれしいよ」と言うのですが、すぐに不安そうな顔で、手をすり合わせながら
「でも、なんだか怖いの」
と言います。え?どういうこと?と思いましたが…

なんとなくですが、これが本来の母だったんだと思いました。

ゴミの片付けをしているのを見て、急に「自分の物がとられる」とか「部屋をとられる」とか、そんな感じの不安に襲われたのだと思います。

私ももう少し気をつけていればよかったのですが、母の根底はいつも「不信感」でいっぱいだったのだと改めて感じました。

他人も自分自身に対しても「きっと大丈夫」という信頼感は持てず、いつもずっとどこか伺い、警戒して生きていた母が今、顕になっているのを感じました。

基本的信頼がもてなかって母は、人に対して安心することを知らなかったのかもしれない…

ジーッと見つめているのも、もはや誰なのか分かるようでよく分からない私たちをどこか警戒していたのかもしれない。

あと、お土産に買っていった甘いお菓子を次々と頬張る母も初めてみました!
食べ物を頬張るのを子供にも「みっともない!」と許さなかった母は、本当は一番こうやって食べたかったのかもしれない。

今になって、やっと理解できることがどんどん増えてきて、なんだか母からは人生のレッスンを受けているような気持ちになります。